タバコの煙が充満した事務所の中で、2杯目のコーヒーを入れるため腰を上げると、彼女はそのまま話を続けた。

「その後1か月くらい兄とは全く連絡が取れなかったんですが、突然兄から電話があって、『大きな仕事がうまくいってまとまったお金が入ったから、もう暴力団はやめた。だから一緒に横浜に行こう。』といった連絡でした。」

「ほう…」

「兄は『明日すぐ横浜に行くから、部屋が決まったらまた連絡する。』と、いつでも横浜に行けるよう準備をしておくように言われました。」

2杯目のコーヒーを入れ、彼女の前に差し出した。

「どうぞ。」

何事もなかったように彼女は話を続けた。

「1週間くらいした後、再び兄から部屋が決まったという連絡があって、私は次の日実家を出て横浜に向かいました。」

「そのことをお父さんやお母さんには?」

「いえ、兄と一緒と言ったら絶対反対されると思ったので、親友が就職で横浜に行くので、私も一緒に行くといって実家を出ました。」

「反対はされなかったんですか?」

「ええ、兄と違って、私は小さい頃から優等生だったこともあって、落ち着いたら連絡先だけは知らせてという程度でした。それに、前々から卒業したら東京に行きたいとは言っていたので。」

「で、お兄さんの所に出てきたわけですね。」

「ええ。その時はもう兄は近くのパチンコ屋に勤めていて、私もすぐに近くのコンビニでアルバイト募集の面接に行き、翌日から働きだしました。」

「それで先ほどの話に戻るわけですね?」

「はい。」

「わかりました。ほかに何かお兄さんに関する情報はありますか?」

と問いかけると、彼女はバッグの中から一枚のチケットをテーブルの上に置いた。

手に取って見てみると、例のみとみらい地区で新規出店するという北海道のアンテナショップの開店記念イベントのプレオープンの招待チケットだった。

マスコミとか関係者向けのもので記念品の引換券付きのものだった。

日付を見てみると、2019年7月7日(日)。お兄さんがいなくなった土曜の次の日だった。

「いなくなってから、兄のものをいろいろ調べていたら、兄が通帳とか印鑑とかをしまっている引き出しの中にこのチケットがあったんです。兄がいなくなった次の日の日付だったので、いなくなったことと何か関係あると思って持ってきました。」

確かに、このチケットがアパートにあったということは、土曜日の夜はアパートに帰り、翌日このチケットを持ってアンテナショップに行くつもりだったはずだ。しかし、マスコミでも関係者でのもないお兄さんがなぜこの招待チケットを持っていたのか疑問が残った。

「なぜこの招待チケットをお兄さんが?」

ダメもとで聞いてみると、衝撃の答えが彼女の口から出た。

「もしかしたら何かわかるかと思って、以前兄の勤めていた北海道の不動産屋さんに連絡を入れてみたんです。そうしたら…」

再び彼女は涙声になって、でも今度はそれでもしっかり話を続け、

「兄が大きな仕事がうまくいってお金が手に入ったというのは実はうそだったんです。。。」

「え?」

「兄がいた暴力団が血眼になって兄を探していると聞きました。」

「え?ってことは?」

「暴力団の事務所の金庫からお金を持ち出してそのまま逃げたらしくて、不動産屋さんにもその暴力団の人たちが訪ねてきたそうなんです。。。」

とんでもない展開になってきた。さっきの殺されるかもというのはそういうことだったのかと、やっと彼女の依頼の全貌が見えたような気がした。

今まで経験した人探しの中では群を抜いてヤバい依頼だった。

だがなぜか、すでにもうこの依頼を断る気はなくなっていた。

彼女は話を続けた。

「 で、この招待チケットは、これもその不動産屋さんに聞いたんですが、兄の大学の友人が北海道の地元の新聞社に勤めていて、その不動産屋さんと広告の取引があったらしく、そのつてでお願いして手に入れたようなんです。」

「なるほど。ではこの依頼書に必要事項を書いて、あと先ほどのお兄さんの写真と、このチケットをお預かりしますね。」

「はい。」

彼女は涙を必死にこらえながら、依頼書を書き始め、私は今日4本目のタバコに火を付けた。

第二章 完 第三章へ続く

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