写真を見ていた山根京子の目には涙が浮かんでいた。

そして、その涙ぐんだ声で出た言葉が、

「この人は白井誠です。私の元彼です。。。」

私は驚きの連続に言葉を失った。

それを悟ったか悟らなかったかわからないが、和田社長が話を続けた。

「この男は山根君の同僚で、このプロジェクトで山根君のアシスタントをしていました。」

今度は山根京子が和田社長の言葉尻にかぶるように話し始めた。

「彼は、兄の大学時代の親友で、家に何度か遊びに来るようになって、なんとなく3人で出かけることも多くなって自然に付き合うようになりました。兄も白井なら安心だって言って二人の仲を応援してくれていました。」

大学時代の親友と二人そろってこの不動産屋に就職なんて珍しいこともあるなと思い、私は話を続けた。

「じゃ、山根武さんとこの白井誠さんはこちらに同期入社されたんですね?」

「そうです。」

和田社長は汗がなかなか止まらないようだった。

「で、山根武さんがいなくなったことにこの白井さんが何か関係しているんですか?」

和田社長は、一瞬口をつぐんだが、暫くの沈黙の後、重々しく口を開いた。

「大きな声で言えないんですが、このプロジェクトの情報はすべて社外秘扱いにしていたんですが、情報が他社に漏れていたんです。」

「といいますと?」

「実は白井君が他社にこのプロジェクトの情報を流していたらしく、それがみなとみらい地区側の責任者の耳に入り、機密情報が漏れたことで、うちがプロジェクトから外されてしまったんです。」

「なるほど。。。」

「その際、プロジェクトはかなり進行していて、当然予算も組まれ、経費もかなり使ってしまっていた状況で困っていたところ、みなとみらい地区側の責任者から再び連絡が入り、使用した経費とプロジェクト自体をすべてを買い取ってもいいという不動産屋がいるという話があり、私はその不動産屋と交渉することになりました。」

「それが札幌の大手不動産屋さんなんですね?」

と和田社長に問いかけながら、山根京子の方を向いて起用に二人に確認した。

答えは和田波長から、

「そうです。」

「で、その交渉はどうなったんですか?」

と聞き返すと、和田社長は、

「金銭的には、うちは機密漏れで違約金や損害賠償を請求されてもおかしくない立場なので、かかった経費と同額でこのプロジェクト自体を買い取ってくれるだけでも御の字なので、一つ返事で承諾しました。」

私はなんか「金銭的には」という言葉が強調されたように聞こえ、引っ掛かり聞き直した。

「金銭的には。ということはそれ以外もなにか条件的なものがあったんですか?」

「はい。。。」

和田社長はまた言葉に詰まった。

私は和田社長が話し出すまで待った。

和田社長はたびたび汗をぬぐい、ため息を一息ついた後、やっと話し出した。

「金銭的なもの以外で一つだけ条件を言われたのが、、、白井君を引き抜きたいという条件でした。」

一連の話の流れで、この白井という男と札幌の大手不動産屋が手を組んでたってことはすぐに理解できた。

その時、山根京子が声を出して泣き出した。

今度はなんだ、と思いつつも、私は声をかけた。

「どうかしましたか?」

山根京子に問いかけた答えは和田社長から返ってきた。

「白井君は札幌の大手不動産屋に引き抜かれた後、事故で亡くなりました。」

私は、今日一日で何度驚かされる言葉を聞いたかわからくなるほどだった。

「そうですか、亡くなられたんですか。」

と声にした瞬間、山根京子が、

「違います、殺されたんです。」

と涙交じりの声で息苦しそうに話した。

「どういうことですか?」

もういい加減、驚き慣れるくらいの話の展開だ。

「あれは事故じゃありません、殺されたんです。彼は、大学時代競泳のサークルに入っているほど泳ぎがうまかったんです。」

「詳しく話してくれませんか?」

「銭函の海水浴場で水死体で上がったんです。警察は溺れたことによる事故死として処理したんですが、絶対溺れるなんてことはありません。」

彼女は泣き崩れていながらもはっきりと声に出して話を続けた。

「彼が死ぬ前の日に連絡を取ったとき、明日は急遽プロジェクトの件でみなとみらいに行くことになったって言ってたんです。そんな彼がその日銭函に行くなんてことはありません。」

「なるほど。」

山根京子の話を聞きながら和田社長の方をふとみるとうつむいたまま汗をぬぐい続けていた。

この時点で私の頭の中で疑問が残っていたのは、白井が殺されたとしたらその理由はもちろんだが、あと一つ、山根がプロジェクト中止と聞き、社長に怒鳴り込んでクビになったという経緯だ。

そのあたりに今回の行方不明の一番の真相が隠されているような気がした。

第五章 完 第六章へ続く

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